●●○PERFECT MUSIC 3
「こっ、こいつ不死身ッ?」
「違う、飛鳥! こいつはロボットだ。Ai-beに作られた、ロボットなんだ!」
「ロボットぉ?」
ちょっと待て、ロボットなら不死身ではない。
おそらく腹だか頭だかに、原動力となる回路があるはず。
弾はあと二発、よし!
BANG! BANG!
狙いを定め、飛鳥は残りの銃弾を全部売った。
弾は絹谷の頭と左胸を打ち抜いた。
そして絹谷は――ゆっくりとその場に倒れた。
「はぁ……」
ほっとして、思わず飛鳥は座り込んだ。
目の前には、部品の螺子やらコードやらが飛び散った絹谷が、横たわっている。
「有難うござい……――あれ?」
お礼を言おうと例の男を探したが、そこに彼の姿はなかった。
あったのは、絹谷に投げつけた、あのカード。
紙かプラスチックだと思っていたのだが、それはごくごく薄い金属でできていた。
ほとりはまるで剃刀のように、切れ味がよさそうな加工がしてある。
そして裏返したそこにあったのは――。
トランプの、ジョーカーだった。
「ダイヤっ!」
呼び声に振り向くと、そこには裕輝の姿があった。
「スペードぉ……」
「馬鹿、何でこんなに時間かけてんだ!」
口調こそきつかったが、とりあえず無事でほっとした、という表情が見てとれた。
「それより、春日柚乃!」
二人は柚乃を機械から解放した。けれど柚乃はまだ意識がなく、ぐったりとしている。
「柚乃ちゃん、柚乃ちゃん!」
飛鳥の呼びかけに、柚乃がゆっくりと目を開いた。
「あ、あれ、私……? …あなたたちは……?」
「悪いけど今は、説明してる暇ないんだ。ここから、脱出する」
「脱出?」
「そう。柚乃ちゃん、俺たちについてきて」
何が何だか分からないまま、柚乃は頷いた。そうして三人は来た通りの道を辿り、再び屋上に到着した。
ずっと機械につながれていた柚乃、絹谷と一戦交えた後の飛鳥はさすがに疲れていたが、裕輝はほとんど呼吸も乱れていなかった。
男女の差か体力の差か、タフだなぁと飛鳥は思う。
飛鳥はそこで柚乃に説明をし、裕輝に一部始終を話した。
「ジョーカー?」
裕輝が尋ね返したのは、例のジョーカー男の話だ。
けれど飛鳥も何が何だか分からないので、これ以上説明もできない。
しかし彼の一連の行動を思い出しながら、飛鳥ははっと気付いた。
「そういえばあの人、あたしの名前知ってた!」
「は? お前は一般人じゃないんだから、名前くらい……」
「名前はそうだけど、顔まで知ってる人、そんなにいる?」
そうなのだ。あの時は気にも止めなかったが、はっきりいってそれは不思議なことなのだ。
「ねぇ、もしかしてジョーカーって……」
「さぁな。まあ、本人が隠したがってるんなら、それでいいんじゃないか?」
どうやら裕輝も、ジョーカーの正体に関して飛鳥と同じことを思ったようだ。
「じゃあ、ジョーカーはジョーカーってことで」
曖昧な笑みを浮かべる裕輝に、飛鳥もそれ以上の詮索をやめた。
「さてと、それじゃいつものやつ、行きましょーか」
言って、裕輝が立ち上がった。
「ハート、待ちくたびれちゃってるんじゃない?」
「そうだな」
「あ、あのぅ……」
不意に柚乃が、声を発した。
「私はこれから、どうしたら……?」
飛鳥は少し考えて、答えた。
「柚乃ちゃんはこれからも、歌を歌いたい?」
柚乃は黙って頷いた。
「じゃあ、あたしたちと一緒においで。あなたのファンに会わせてあげる」
「え? で、でも……」
「もういいのよ。Silky Wayのやり方に従う必要は、もう何処にもないんだから」
* * *
恒例となった、3AのCDばら撒き会場、とあるビルの屋上に、四人の人影があった。
眼下には、広がる人の群れ。
全て、春日柚乃のファンだ。
「ほら、柚乃ちゃん」
飛鳥が柚乃を促す。
デビューしてからはじめて人前に姿を現した柚乃に、ファンたちは興奮していた。
「今晩はー、春日柚乃です。いつも応援ありがとー。これからも頑張るので、私の歌をまた聴いてください!」
ありったけの声で柚乃が叫ぶ。人々は一斉に、柚乃にエールを送った。
「それじゃ、いくぞ!」
裕輝の声で、四人はCDをばら撒き始めた。
月の光、星の光を浴びながら、いつまでも止まない雪のように、CDは降っていった。
人々はそれを捕まえようと、競って手を伸ばす。
その場にいるもの全員が、この終わらない夢の中に永遠にいたいと願っていた。
柚乃の夢はまだ、始まったばかりだ。
fin.
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読めば分かるように、ものすごく肩の力抜いて書いてます。
何か、「キャッツ・アイ」みたいなの書きたいなぁ何て思いつつ……。
しかし、何故かジョーカーはイメージがタキシード仮面(苦笑)。
作曲家・大野愛果さんのセルフカヴァーアルバムのタイトル「Shadows of Dreams」から、影(=裏方さん)にも夢ってあるんだろうなーと思い、作家さんに光を当てた作品を書いてみました(なんか趣旨から外れた気もしますが)。
読む人が読めばきっと分かる…飛鳥、由香里、裕輝はもちろん、柚乃や麻人にもそれぞれモデルがいます。
といっても設定を使わせて頂いただけですが。
“3A”の名前はその方々のイニシャルがみんなAさんだったからです。
ちなみにタイトルは、倉木麻衣の「PERFECT CRIME」より。
これも逆説的に。
麻人さんの過去とか、柚乃のこれからとか、まだまだ書いてみたい話ではあります。