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見飽きた窓の外の景色、昨日と変わらぬ空の色、何もする気が起きないくらい、けだるい朝。うすきみどりいろのカーテンを開けると、日光の眩しさにあたしは目を細めた。

この季節独特の空気の温度。もちろん、一年中変わり続けてはいるのだけど。少しだけ風が吹くなら、まだ上着なしでは寒いかもしれない。

窓の外、何もかもが降り注ぐ光を浴びて、生命力が溢れているように見える。


それなのに。


自分ときたら、日当たりが悪く、冬の間にストーブの灯油の匂いが染みついた、陰気臭い部屋で。

いくら掃除をしてもどこか埃っぽくて黴臭い、息の詰まりそうな部屋で。今日も、何も変わらない一日を過ごしている。

(ナニモカワラナイ?)


全く同じ日なんて、この数十億年の地球の歴史の中でも、これから何億年先でもありはしないのだろう。

だけど、そんなことさえ忘れてしまいそうな日々だから。

それでも、変わらないものなど何もない。だからほら、昨日と雲の形も違う。

少し窓を開けた。春の空気が、部屋に流れ込んでくる。机の上におかれた、あてもなく書き綴っていた書きかけの手紙を、悪戯な風がぱらぱらと吹き飛ばして行った。

それを目で追って、もう一度窓の外を見る。


ふわりと。


うすべにいろの――陽のひかりのせいで限りなく白色に近く、なごり雪のようにも見える――はなびらが舞い降りた。


(桜、さくら、サクラ…)


何故だろう。

この花を見ると、あたしはいつも切なくなる。

まるで閉ざされていた扉を開け放ち、忘れかけていた記憶を呼び覚ますような不思議な感覚。

いつか見た甘い夢を思い出したような、懐かしさ。


あたしは昔から桜のことを、出会いの樹、と呼んでいた。

桜の咲く場所で、多くの出逢いが生まれた。

日々を共に過ごした仲間、いつも支えてくれた友人、そしてとても大切なあの人にも出逢えた。

だけどいつも、必ず訪れた別れ。

人は別れるために出逢うのだと誰かが言っていたけど、別れるまでの間にどれだけ共有できるか、それが大切なのだと思う。


(桜、か……)


美しい思い出は、いつまでも記憶の中に留まるだろう。

それだけは、どうやっても消せやしない。

それは、この桜の花たちと、同じなのかもしれない。



fin.

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いつだろうなぁ…数年前の春に、日記みたいなつもりで書き綴った散文…かな。

桜の花って、やはり誰にとっても特別な意味を持つんじゃないかなぁとか、思います。





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